東川アウトドアフェスティバル

2015年10月30日金曜日

自転車二人旅・Yoko&Hiro

■Yoko & Hiro
夫婦ふたり、自転車で地球を走り抜けた4年9か月の旅。
自転車だから味わえる景色があった。
自転車だから感じられる空気があった。
自転車だから出会える人々がいた。
ゆっくり走った57の国々、3万5000kmの旅の記憶。

ようことひろの 自転車ぐるぐる世界旅

http://yokoandhiro.com

<旅の概要>
2008年10月から2013年7月まで、夫婦で自転車の旅に出ていました。私たちの旅は地球を一本のルートでぐるっと回ると言うよりも、行きたいところをいい時期に走るために、あっちにこっちにと飛び回るものでした。
旅に出るときには行きたいところをピックアップして、かかる時間を予想して、なんとなく全部で4年くらいかなぁと思って出かけました。行きたいところはまだまだありますが、どうしても行きたいところには行ったし、旅自体もとても満足できるものでした。
今回の写真は旅の中でも特に思い出に残った場所です。いろんな所に行ったのでなるべくまんべんなくエリアを分けて選び出したものです。


スペイン/2013年6月

自転車の旅の最終地点「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」の大聖堂の前です。旅の終わりはどこでも良かったんですが、なんでもない場所で終わりにするのも寂しいねと話していたんです。スペインにはフランスから続く「サンティアゴ巡礼路」があります。最後に走っていた国がスペインということと、巡礼路の終点をこの旅のゴールにするのが気持ちの区切りもつきそうだったので、最後は巡礼路を走ってここを目指しました。

周りには巡礼を歩き終えた人も多くて、みんなここにたどり着いたことをとても喜んでいるんです。けれど自分はそういう賑わいの外にいる感じがしていて。達成感を溢れさせている巡礼者を眺めながら、ここで旅が終わってしまうということを受け入れられるような、受け入れられないような、不思議な気持ちで佇んでいました。

シリア/2008年12月

私たちがシリアを訪れたときは、まだシリアが平和な時でした。シリアの人たちは本当に人に優しいんです。観光名所は少ないけれど、このシリアの人たちの気持ちこそが触れるべきものだと思っています。
写真は、旅の中で最も印象的だった家族です。アラブ圏には宿が少ないし、何もないところで野宿するのは怖いので、私たちはよく民家の庭先にテントを張らせてもらっていました。このときも同じお願いをしたら、彼らは寒いから外なんかダメだと言って、すぐに家に招き入れてくれたんです。季節は冬だったんですが、私たちにとっては特に寒くはない気候でした。
右奥に写っている四角い建物が彼らの住居です。ご覧の通り、決して裕福な家族ではありません。それなのに突然現れた私たちに、たぶん一番いい食材を使って食事を用意してくれて、薪も惜しみなく焚いてくれて。育ち盛りの子供がいるのに、すべてを使い尽くすくらいのもてなしをしてくれました。その心遣いが嬉しくて、申し訳なくて。
翌朝、せめてものお礼にと思って、持っていたお菓子を子供たちにあげようとしたんです。でも「それはこの先の砂漠超えで、あなたたちに必要なものだから」といって、笑顔のまま頑として受け取らないんです。

以来、もし自分が逆の立場だったら、同じ事ができるだろうかって考えるようになりました。何の見返りも求めずに同じ事ができるだろうかって、常に自問自答するようになりました。

ボリビア/2011年12月

ウユニ塩湖は雨期になると浅く水がたまって、地平線まで空が映る鏡張りになることで有名です。私たちが行ったのは乾期でした。というのは、この乾いた湖を走ってみたかったし、この塩の上でキャンプしてみたかったからです。
昼間は日差しが強いし、塩からの照り返しもある。乾期の塩湖は休憩する場所もない、暑くて過酷な所でした。

一日走って塩湖の真ん中まで来ると、周りには誰もいなくて私たちだけ。写真はテントを張り終えて、夕暮れが近づいてきたころです。空がピンクに染まりはじめてとてもキレイでした。これから陽が沈むにつれて塩の地平線と空との境目が曖昧になっていきます。その風景はまるで自分たちが宙に浮いているようで不思議な感覚でした。朝は朝でオレンジ色の強い光が、世界を一斉に照らしはじめる。さまざまな光の美しさに地球の広さを感じて、走ってきて良かったと思いました。

アンデス山脈/2012年1月

南米の太平洋側を南北に走るアンデス山脈を、私たちは何度も東西に横断していました。標高5000mにもなる峠を自転車で越えようとすると1週間くらいかかります。途中には村も何もないので、水も食料も全部持って走るんです。道は悪いし標高は高くて酸素は薄いし風は強い。時には深い砂でタイヤを取られると、自分の体重より重い自転車を引きずりながら進むことになります。そんな不毛な毎日に打ちのめされて、身も心もボロボロになってくるんです。何やってるんだろうと思いながら、ふと顔を上げた時の景色がこの世のものとは思えない美しさで、青とは表現しきれないような空の色や、空気がきれいすぎて距離感のない宇宙的な風景に心を吸い込まれてしばらく見とれて、ハッと我に返ってまた進む。その連続です。

峠を超えているときはもう嫌だと思っているんですけど、超えてしばらくするとあの過酷な道に戻ろうかっていう気持ちになるんです。過酷さとしては一番過酷。でも、それに見合うご褒美がある場所でした。

ヒマラヤ/2012年10月

北インドのヒマラヤ山脈です。ここは道も悪くて標高も高いのでなかなか距離を稼げない、辛いルートでした。一生懸命漕いでも一日に30kmも進めない。そんな道を走っているときに、とても素晴らしい景色の場所があるって、地元の人に教えてもらったんです。でも、そこまで往復30km。毎日悪路と格闘している中、一日分の寄り道をするのはとてもためらわれたんですが、最終的には夫と行ってみよう!と話し合って、寄り道したんです。

そうしたら本当に素晴らしい景色が広がっていて。広くて、地形が複雑にうねっていて、その中にチャンドラ・タルっていう名前の湖があるんです。この日は写真の風景の先でテントを張って、二人で風景を独占しました。荒野の中で野宿をするのはとても怖いし落ち着かないんですが、このときは雄大な景色に見とれてしまったのを覚えています。

ネパール/2013年1月

歩くのも好きなので、自転車での旅の途中では何回か自転車を宿に預けてトレッキングの旅に出ました。

ネパールのエベレスト街道を一ヶ月ほど歩いたのはハイシーズンでした。ルートの中には何カ所か有名な場所があります。このゴーキョ・リもそのひとつで、やっぱり人が多い時期だと言うんです。私たちは普段から人のいないところばかり走っていたので、人の多い観光ルートなんてって思って期待してなかったんです。でも行ってみたら、そんな気持ちが吹き飛んでしまうくらい圧倒的な景色でした。もう、言葉で表現できない、かといって写真でその魅力を伝えることもできない。運良く1時間くらいは他に人がいないタイミングだったので、360度の絶景を二人で黙って、じっと味わっていました。ホントに世界中好きなところはいっぱいあるんですけど、やっぱりまたここに絶対来たい、いろんな事があってもまた絶対来るぞって思う数少ない場所のひとつです。